むかしむかし、マリモちゃんは湖の底に住んでいました。 月光が輝くある夏の夜、マリモちゃんが目を覚ますと全身を覆っていた緑のフサフサが無くなっていました。 「あら、なんという事!」 マリモちゃんは、まるで皮のむけたブドウのようになっていました。 他の仲間はマリモちゃんの姿を見て言いました。 「君はもうマリモの仲間じゃない!ここから出ていけ!」 このようにしてマリモちゃんは湖を出る事になったのです。 湖から陸に上がると、緑のフサフサがないので風が直接マリモちゃんの体にあたりました。 少し寒かったのですが、外の空気はとても気持ちよく感じました。 マリモちゃんは初めて空気を吸ったので、とても幸せな気分になりました。 どこかに喜びを分かち合える友達は居ないかと、あたりを見ましたが誰もいません。 そこでマリモちゃんは旅に出る事にしました。 途中、凍えてはいけないので、陸に生えているコケを体に巻きました。 マリモちゃんは振り返ると、かつての仲間達が緑のフサフサに包まれ湖の底で平和そうに ユラユラしているのが見えました。 「でも、湖のマリモ達は私のように陸の気持ちよさや空気の美味しさを知らないんだわ!」 そう考えるとマリモちゃんは元気になりました。 朝になりました。 強い日光がマリモちゃんに照りつけます。 太陽を初めて見るマリモちゃんは太陽の暖かさに感動しましたが、 太陽が真上に照りつける頃には体が焼けるような暑さになっていました。 「ああ。このままでは干上がってしまうわ」 マリモちゃんは周りの植物や虫達に頭を下げて水を分けてもらいました。 とても情けない気持ちでしたが、分けてもらった水を飲むとその美味しさに驚きました。 湖に住んでいた頃は水に味があるなんて思わなかったのです。 マリモちゃんは何日も何日も歩き続けましたが、同じような仲間には会う事が出来ません。 夜になると、寒くなるのでマリモちゃんはブルブル震えながら夜を過ごします。 マリモちゃんは寒さと寂しさで湖が恋しくなりました。 「湖の神様!どうして私だけ、このような目に遭うのですか?」 マリモちゃんが寒さに震えながら言うと、そこへ湖の神様が現れました。 「安心したまえ。北へ北へ向かうと君と同じ仲間が大勢いる」 と湖の神様は言いました。 「ええ、北へ向かいます!でもこのままでは凍え死んでしまいます!」 「君には色々と苦労をかけてしまった。だから君には火を起こす魔法を授けよう」 マリモちゃんは火を起こす魔法を授けられました。 「湖の神様、ありがとうございます。これで凍え死ぬ事はないでしょう。 でも教えてください!私はどうして湖から出なければいけなかったのですか?」 「それは北へ向かうと分かるだろう」 マリモちゃんは勇気を振り絞り、北へ北へと歩き続けました。 マリモちゃんが北の大地に着くと、湖の神様が言うとおり、そこには大勢の仲間が居ました。 そこでは緑のフサフサがなくなった大勢のマリモ達が寒さに震えながら凄していたのです。 マリモちゃんは、魔法で火を起こし寒さで震えるマリモ達を驚かせました。 「見ろ!あのマリモは空中で火を起こしたぞ!」 「魔法使いだ!」 「いや、我々の救世主だ!」 「彼女は我々の女王様だ!」 マリモちゃんは女王としてマリモ達に迎えられ、そこで暮らす事になりました。 そして何年も過ぎました。 女王の火のおかげで、マリモ達の暮らしは良くなり、幸せな日々が続きました。 マリモ達は子供を作り、マリモの数は増えていきました。 やがて、そこにマリモの町ができました。 町は何年もすると国になり、国の中心には女王の為の立派な宮殿が建てられました。 女王になったマリモちゃんは大きな祭壇を作り、湖の神様へ感謝しました。 でもあの日以来、湖の神様は女王の前には現れません。 マリモの国は平和に発展を続け、さらに何年も過ぎていきました。 女王の火と体に巻き付けているコケのおかげで、マリモ達は凍える事はなくなったのですが、 もっと暖かくなる為に、マリモ達がお互いにくっつく事がはやり始めました。 マリモの表面はツルツルなので、とてもくっつきやすいのです。 マリモはお互いくっつくと離れなくなり、一回り大きなマリモになるのです。 このようにして、どんどんとくっついて、どんどんと大きくなったマリモが増えていきました。 長年平和に暮らしていたマリモ達でしたが、大きくなったマリモは力も強く、ついでに気も大きかった。 大きくなったマリモ達は、次第に互いに争うようになりました。 女王が宮殿からマリモの町を見ると巨大化したマリモ達が争っているのが見えました。 マリモ達の争いが収まる気配はなく、女王は困り果てました。 そこへ湖の神様が現れました。 「女王陛下、お困りのようですな」 「ああ、湖の神様!あなたは私が困った時にだけ現れるのですね! 見てください!みんなの為に火を起こし平和な国を作ったと思ったのに、この有様です! 私はどうすればいいのですか?」 湖の神様は町を指差しながら女王に言いました。 「あそこに居る若者が見えるかね?」 女王は湖の神様が指差す所を見ると、みんなとくっつく事無く一人でいる若いマリモが居ました。 「あの若者は、昔の君じゃよ」 そのように言うと湖の神様は消えてしまいました。 そうして、ある日クーデターが起きました。 巨大化したマリモ達は女王の宮殿を壊しながらやってきたのです。 「もう女王の火は時代遅れだ!大きくなった我々は十分に暖かい。もう女王の火は必要ない!」 「大きくなったマリモに政権を譲りたまえ!」 巨大化したマリモに小さなマリモが敵うはずもありません。 女王の兵士達はたちまち巨大マリモに滅ぼされてしまいました。 女王は捉えられ、牢獄に入れられました。 牢獄の中で、女王が湖の神様に祈りを捧げていると、ガチャリと音がして 牢獄にあの若者が入ってきました。 「女王様、ここから出してあげます。ここから逃げましょう!」 女王と若いマリモは二人で平野を歩きます。 「女王様、急いでください!もうすぐ追っ手がやってきます!」 しかし、すっかり歳も取り牢獄で病気にかかってしまった女王はもう走る事が出来ません。 「若者よ。あなたは、どうして私を助けようと思ったのですか?」 「女王様、僕は昨夜夢をみたのです」 「それは、どのような夢ですか?」 「夢の中で僕は湖の中に住んでいました。湖の中はそれはそれは懐かしい 気持ちでした。出来れば、いつまでも湖の中に留まりたいと思いました。 ・・・しかし、そのままでは僕は外の世界の事を知る事ができません。 僕は緑の衣を脱ぎ捨て、湖から出て陸へと上がったのです。 その夢で僕は分かったのです。僕はみんなとくっついてはいけない、と。 だから僕は女王様を助けようと思ったのです」 二人は何日も歩き続けやがて、素晴らしい眺めの湖が見えました。 「ここが私の故郷よ。若者よ、私はもう満足です。 自分の国を作る事が出来たし、死ぬ前に故郷を見る事もできたわ。 湖を出る事がなければ、私はこんな経験をする事もなかったでしょう! 湖の神へ感謝しますわ」 「女王様、あの湖へ帰りたいですか?」 「いいえ。私は今、何故緑の衣を脱ぎ捨てたかを理解しました。 ・・・それは、『大いなるマリモと』一緒になる為なのよ」 「その『大いなるマリモ』はいったいどこに?」 「この大地が『大いなるマリモ』よ。あなたは行って自分の国を作りなさい。 私は『大いなるマリモ』とひとつとなる時が来ました」 そのように言うと、マリモちゃんは静かに息をひきとりました。 若者は死んでしまった女王を湖が見渡せる丘に埋めました。 いや女王はきっと死んではいないのでしょう。 女王は『大いなるマリモ』と永遠にひとつになったのです。 空には満天の星空が輝いていました。 若者には、ふとその星空が湖の底から見る泡のように見えました。 いつの日か若者も上へ上へと昇り、『大いなるマリモ』を見る事が出来るような気がしました。 『大いなるマリモ』はきっと美しい緑色で輝いているに違いありません。 おしまい ![]() 全世界6500万部のベストセラー『アルケミスト』のパウロ・コエーリョ初の絵本「雲と砂丘の物語」 世界に先駆けて書籍化! 地中海で生まれた“雲”は、ある日ほかの雲と別れて砂漠に向かった。 そこで出会った“砂丘”に一目で恋に落ち、そのまま留まることを決める。 しかし、それは“雲”が遠からず消えてしまうことを意味していた。 自分の存在と引きかえに、砂漠にはある奇跡が生まれようとしていた──。 夫婦合作でつむがれる希望と再生の物語。 ![]() 雲と砂丘の物語 文/ パウロ・コエーリョ (Paulo Coelho) 絵/ クリスティーナ・オイティシカ(Christina Oiticica) 訳/ クレーン・ケン 装丁/ 金井伸夫 四六判上製・40ページ 定価:1,470円(税込) 発行元:TOブックス 2012年10月25日発売 あいうえおの国とても遠い遠い海の先、そこに「あいうえお」の国がありました。
「あいうえお」の国には「あ」と「い」と「う」と「え」tが住んでいました。 みんなはとても仲良く何百年も暮らしていました。 「あ」と「い」が結婚をして「あい」が生まれました。 「い」と「え」が結婚をして「いえ」が出来ました。 「う」と「え」が結婚をして「うえ」が生まれたのです。 「あいうえお」の国の隣には「かきくけこ」の国がありました。 みんなはとても仲良く何百年も暮らしていました。 「かきくけこ」の国は「か」と「き」と「く」と「け」と「こ」が住んでいました。 「か」と「き」が結婚をして「かき」が出来ました。 「き」と「く」が結婚をして「きく」が咲きました。 「こ」と「け」が結婚をして「こけ」が生えました。 「あいうえお」の国と「かきくけこ」の国の間に「ん」の島がありました。 「ん」の島には「ん」が住んでいました。 「ん」は一人ぽっちで何百年も暮らしています。 「あいうえお」の国と「かきくけこ」の国はとても仲が悪かったそうです。 「ん」の島は自分の島だとお互いに言ってからです。 「あの島は私たちの島だ!高い金を払って買った島だからな!」 と「あいうえお」の国は言います。 「いや、あの島は私たちの島だ!だって歴史の教科書にも、あの島は私達の島だと書いてあるからな!」 と「かきくけこ」の国は言っていたのです。 このようにして「あいうえお」の国と「かきくけこ」の長い事争っていました。 ある時、「かきくけこ」の国から「こ」が「あいうえお」の国へ留学でやってきました。 同じ学校へ行ってた「い」が「こ」の事を一目で好きになりました。 「こ」も「い」の事が好きになりました。 「こい」が生まれました。 でも二人は結婚をする事が出来ません。 みんな二人の結婚には反対をしていたからです。 悩んだ「こ」と「い」は「あいうえお」の国を逃げて「ん」の島へとやってきました。 とても気の毒に思った「ん」は「こ」と「い」を島に住ませてあげる事にしました。 「こ」と「い」と「ん」は長い事とても仲良く暮らしました。 ある日の事。 「ん」の島で「いんこ」が生まれました。 「いんこ」は空高く飛び立ちました。 「あいうえお」の国と「かきくけこ」の国は「いんこ」を見て驚きました。 今までそんな物を見た事がなかったからです。 それを見たそれぞれの国の住人はお互いの国の住人と結婚を始めました。 「あ」と「き」が結婚をして「あき」が出来ました。 「か」と「お」が結婚をして「かお」が出来て「おか」が出来ました。 「え」と「き」が結婚をして「えき」が出来ました。 「あ」と「ん」と「こ」が結婚をして「あんこ」が出来ました。 でも良い事ばかりじゃありません。 「け」と「ん」と「か」が結婚をして「けんか」も始まりました。 それでも「あいうえお」の国と「かきくけこ」の国はとても仲良くなりました。 「ん」の島ももう寂しくありません。 それを見た隣にある「さしすせそ」の国や「はひふへほ」の国や「らりるれろ」や「やゆよ」の国も仲良くなりました。 「あ」と「さ」が結婚をして「あさ」が来ました。 「ひ」と「る」が結婚をして「ひる」になりました。 「よ」と「る」が結婚をして「よる」になりました。 「すき」も生まれましたが「きらい」も生まれました。 色々と大変な事も生まれましたが、どの国もとても賑やかにになり豊かになったそうです。 おしまい 花火師白髪まじりの眼光が鋭いその男は国一番の花火師だった。
その花火師の右に出る者は誰も居ないと言われており、花火大会の季節になると花火師は花火を打ち上げる為、国中を旅して回っていた。 今日も花火師は地方都市の花火大会に向う為、打ち上げ花火を乗せたトラックの助手席に座っていた。 隣では花火師の弟子がトラックのハンドルを握っていた(そこの花火屋では伝統的に代々一人だけ弟子を取り、その弟子だけに代々伝わる技術を修得させていた)。 花火師はニコチンが30ミリグラムもあるタバコをひたすら吸い続け空を見上げていた。 花火師は酒を飲まなかった。 15の時に花火屋に弟子入りしてからというものの、花火師は半世紀も煙を吸って生きてきた。 50年間、彼は火薬と煙にまみれて生きてきた。 煙は彼にとっては酸素と同じような物なので、煙が無い所は居心地が悪かったのである。 花火が生き甲斐なので、彼は酒を飲もうと考えた事もなかった。 また彼は音楽にもあまり興味が無く、したがってトラックの中には音楽もかかっておらず、生来無口な人間だったので、トラックの中はエンジンの回転する音とハイウエイを走行するタイヤの音しか聞こえなかった。 親方が無口な事は承知している弟子だったが、さすがに沈黙に耐えられずに弟子はハンドルを握りながら沈黙を破った: 「・・・・先生、今晩晴れるといいですね」 15秒の沈黙を置いて花火師は口を開いた。 「晴れる」 花火師は天気を読む名人でもあった。 雨が降るかどうかだけではなく、風向きも花火の打ち上げに影響を及ぼすので、天気を読む事は花火師にとっては死活問題なのだ。 その後、話すべき話題が何も無くなったので、二人は黙り込みそしてトラックは花火大会が催される会場へとストイックに走行していった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 花火大会も終盤に近づいてきていた。 花火師とその弟子は汗だくになりながら次々と花火を打ち上げていた。 弟子が導火線のスイッチを入れると鉄製の筒は火柱を上げ花火の玉を夜空に向け打ち上げた。 シュルシュルシュルという音をたて三尺玉が夜空へと舞い上がり、ピカッと光りながら炸裂をした。 0.5秒後にズドオオーンという轟音が二人の腹に響き、錦冠の銀色の花が夜空に咲いた。 「フン、今のはお前が作った玉だな。まだまだ星の詰めが甘いな」 と花火師は弟子に言った。 自信の作品だと思っていたのに、師匠にそのように言われたので弟子は黙って師匠の話を聞いていた。 「・・・・・星を詰める間隔が不揃いなのだよ。まだ分からんだろうな。玉の中に星を詰める時にお前は念がこもっていなかったのだ。ワシには今のを見ただけで玉を作っている時にお前が何を考えていたのか全て分かるぞ。 お前は花火に込めている愛情がまだまだ足りん!!」 「・・・・・・・・・・」 「たとえば次に打ち上げるスターマインはお前は少し手抜きをしたな。 二重目の層がまだ十分に乾燥していないのにお前は火薬を詰めただろう?」 図星だったので、弟子は驚いた。 「先生、どうしてそんな事まで分かるのですか?」 「匂いだよ。ワシは玉の匂いを嗅ぐだけでその出来が分かるのだ。目をつぶって火薬の匂いを嗅ぐだけでもワシには全ての粉の違いが識別できる。勿論、花火が散る時の音だけでもその出来不出来が分かる」 それを聞き、弟子は師匠はやはり国一番の花火師であると確信した。 「先生、先生にはもう同レベルのライバルなんか居ないでしょう?」 「・・・・いや、居る。ワシよりも凄いのが居るぞ」 「誰ですか、それは?」 「お前にはまだ話していないが、今晩そいつと対決する事になるかもしれん」 「今晩?その花火師はここに来ているのですか?」 弟子はトラックの最後尾に積まれている大きな箱を思い出した。 きっとその箱に勝負花火が入っているに違いなかった。 「向こうの方から対決する場所を指定してくるはずだ。ワシは何十年もこの時を待っておった」 花火大会が無事終了し、花火師の弟子はハイウエイのサービスエリアにトラックを止め師匠が電話ボックスから出てくるのを待っていた。 時計は丁度深夜0時を指していた。 夜空には月が無く、明かりといえば瞬く星とハイウエイを照らすオレンジ色の明かりだけだった。 電話ボックスを見ると師匠が電話ボックスから出てきてトラックに向って歩いていた。 花火師がトラックの扉をガチャンと開けると言った。 「場所を指定してきたぞ。ワシの言うとおりに道を走らせろ」 トラックはハイウエイを出て、人里離れた山道を走っていた。 道の脇には、暗くて見えないが川が流れているようだった。 時計を見ると、深夜1時を回っていた。 「先生、どうしてこんなへんぴな所で花火を打ち上げるんですか?本当だったらもっと広い空間が無ければいけないのですが・・・・」 「分かっておる、分かっておる。しかしこれから打ち上げようという花火は十五尺の玉なのだよ」 「十五尺?!そんな巨大な花火は聞いた事ありませんよ!!」 「そう。だからなるべく人の目に触れたくないのだよ。なんせ違法だからな。 ワシは密かにこの花火を5年がかりで作っていた。恐らくワシの最高傑作だろう・・・・・。お、この場所だ。トラックを止めたまえ」 花火師と弟子はトラックを降り十五尺玉と打ち上げ用の筒を背中に担ぎ、道路の脇にある獣道へと足を踏み入れた。 しばらく歩くと、夜中だというのに一人の少年が向こうから歩いてきたので弟子はギョッとした。 道の向こうを見ると見捨てられたような古い城が立っていた。 きっと少年はあの城に住んでいるのだろう、と弟子は思った。 「君、君はここらで一番星空が見渡せる場所を知らないかね?」 と花火師は少年に話かけた。 「・・・ああ。それだったらこの道の先にある丘の上がいいんじゃないかな。 その丘の上からだったら、きっとこの宇宙中の星が見渡せるよ」 そのように少年は言うと、その場を後にした。 丘の上に着くと二人はさっそく十五尺玉の花火をセッティングする作業に取りかかった。 作業が終わり、懐中電灯の明かりを消すと暗闇が二人を包み、少年の言うとおりまるで宇宙に浮かんでいるかのような星空が見渡せた。 都会ではけっして見る事の出来ない満天の星空だった。 頭上を見ると天の川がくっきりと見え、大気の密度の影響で星々が揺らいでいるのが分かった。 「先生、本当にこんな所までライバルは来るんですか?」 「もうお前にはワシのライバルは見えておるよ」 「は?」 「ワシのライバルはお前が見ておる星空だよ」 「・・・・・ちょっと待ってください!さっき先生は電話ボックスで誰と話していたのですか?まさか先生は星空と電話で話していた、と言うんじゃないでしょうね?」 弟子の問いには答えずに花火師は言った。 「星空ほど、この世で美しい物は無いだろう?優秀な花火師が何十人かかってもあの星空には及ばぬ。・・・・ワシはあの星空に嫉妬した。 そしていつかは、あの星空を負かす程の花火を作ろうと心に決めたのだ! そしてとうとう、決着を付ける日がきたのだ・・・・・」 とうとう師匠は気が触れたのか、とポカンとした顔で弟子は花火師を見た。 しかし花火師の顔は真剣そのものだった。 「・・・先生、どうしますか?導火線に火を付けますか?」 「まて!!向こうから合図があるまで待つのだ」 と花火師は弟子に言い、30ミリグラムのタバコに火を付け草むらの上に腰を下ろし、星空を鋭い目付きで見上げた。 師匠を天気を読む名人だという事は知っていたが、星空と対話をする名人だとは弟子は夢にも思わなかった。 人には、色々と周囲の人すら知らない側面があるものだ、と考えながら弟子も草むらに腰を据えた。 30分ぐらい経ち、暗闇の中で花火師の息の調子が変わったのを弟子は聞いた。 花火師は立ち上がり弟子に告げた。 「今だ!合図があった!!火を付けろ!」 弟子は導火線のスイッチを入れた。 シューッという音をたてながら導火線が燃えてゆき、本体の筒の中に火が入っていき、しばらくの間の後、巨大なズボンッという音をたて十五尺玉が火に包まれながら空に飛んでいった。 二人ははるか上空に上がっていく十五尺玉とそれが描いていく軌跡を見つめた。 数秒後、空の彼方で十五尺玉が炸裂し、四方に金色と銀色の放射線状の星々の花が開いていった。 今まで聞いた事もない巨大なズガアアーンッという音が二人の元に届いた。 周囲の山は花火の明かりで真っ白に染まり、上空では半径1キロはあるであろう巨大な冠スターマインの壮大な花が開いていた。 「先生!!見事です!こんな花火は私はいままで見た事もありません!!」 しかし花火師は表情ひとつ変える事無く巨大な花火に包まれた夜空を見上げていた。 キラキラと舞い降りる幾十ものスターマインの残滓を見つめながらも花火師は黙って空の彼方を見ていた。 (どうだ!!星空よ。これがワシの50年の集大成だ。これがワシの「念」なのだ!!) しかし星空は何ひとつとして答えなかった。 花火の残滓が消え去り、周囲が再び暗闇に包まれ、花火師はガックリと膝を草むらに落とした。 その時、大気が揺らいだせいなのか星空全体が一瞬、瞬いたかのように見えた。 花火師は立ち上がり、弟子に言った。 「見たか?!いま星空が一瞬だがワシに屈服したぞ!!」 「そうなんですか?私には星空全体が瞬いたように見えたのですが」 「そうだ!!星空は、いや宇宙はワシの花火に歓声を上げたののだよ!!聞こえなかったかね?」 そろそろ病院を呼んだほうがいいのだろうか?と考えながら弟子は言った。 「つまり、宇宙は先生の花火に負けたのですか?」 「バカを言うな。宇宙が負けるわけが無いだろう?しかし、一瞬だが宇宙はワシの花火を認めそれに屈服したのだよ!・・・・ハハハハ!!こんな愉快な事はそうそう無いぞ!!人間が自然や宇宙に対抗して勝てる訳が無いのに、しかし一瞬の間ではあるが人が宇宙と勝負をして勝つ事が出来たのだぞ、君!!」 山を下山しながら花火師は弟子に言った。 「ワシはもう引退をするよ」 「なんですって?しかし先生の腕はちっとも落ちてはいません。今の花火を見てもそれは十分に分かります!」 「ワシにはもう思い残す事はあまり無いのだよ・・・・。まだお前は未熟だが、見込みはある。お前がワシの後を継げ。もう十分に技術は伝授してある。 後は『精神』の問題だよ。・・・・なに、その内ワシが何を言っているのか分かる日が来るだろう」 「・・・・・・・・・・・」 花火師の話を聞きながら弟子は、職人とはこんな変人ばかりなのだろうか?と考えていた。 もし後を継いだら、自分もドンキホーテのように宇宙に勝負を挑むようになってしまうのだろうか? 花火師の弟子は一方ではこの世界に踏み入れた事を後悔しつつ、一方では花火師の親方を継いだ事を喜び、未来を思い描いていた。 花火師とその弟子の頭上では天の川が煌めき、足下の草むらからは虫の音が聞こえていた。 もう、秋も近くなっていた。 小さな花火の物語 昔むかしある所に小さな花火が居ました。
花火は夜空に向って旅をしています。 夜空にはとても美しい星々や月が輝いていました。 花火は星々や月に聞きました 「どうして僕たちは、みんないずれは死んでしまうのに、この世に生まれてきたのですか?」 しかし星々や月は何も答えてくれません。 そしてやがて、短い旅の後、花火は爆発をして夜空に大きな花を咲かせました。 星々や月はそれを見て、その美しさに驚きました。 最後の瞬間、小さな花火はこの宇宙で最も美しい存在だったのです。 花火は自分の事を誇らしく思い、満足して夜空の中へと消えていきました。 Ebony and IvoryMillions of years ago, when mankind was born at Africa, along with a wisdom to live in a nature, mankind created music. Mankind needed the music to synchronize with the universe and nature. Most of the people were specialized in playing the rhythm, but some of them were good in playing melody. There once was a tribe who were very good in playing and composing melody. All of the tribes were in peace for thousands of years, but one day, there was an war between the tribes. The tribe whom were good in melody lost the war, and they were all caught as a slave by another tribe. The slaves were discriminated for a very long time, so they decided to escape from Africa. The tribe went north. In an exodus, they did not forget to bring their musical instruments with them. The tribe crossed an ocean, and reached the land where no man has ever gone. The tribe settled and spread in the land and created their new cultures. And their descendants kept on creating their own music. Millions of years later, people in Europe were specialized in creating their own melodies. While in Africa, people were successful in creating a very complicated rhythm. When the people in Europe went to the New World, they brought the people of Africa as a slave. The slaves had a very hard years at the New World. But they did not forget their own rhythm. In order to survive the hard days, they needed to express their own rhythm. When those slaves became free at the New World, the rhythm and the melody decided to get married to each other. And so the people around the world has now heard the perfect music which people has never heard before. 正義の味方4歳の頃、双子の弟は兄にこう言った。 「僕、大きくなったら正義の味方になるんだ」 レゴブロックで遊んでいた兄は手を止め弟に聞いた。 「どうしてだい?」 「だって、かっこいいんだもん。テレビに出てくる正義の味方はみんなかっこいいだろ?」 「じゃあ、僕も大きくなったら正義の味方になろうかな」 「お兄ちゃん、それはダメだよ。正義の味方は一人しかいないんだから」 そのように言われ、兄はしばらく考え込みこう言った。 「分かったよ。正義の味方はキミに譲るよ。僕は大きくなったら悪者になるよ」 「ありがとう。でもどうしてお兄ちゃんは悪者になるんだい?」 「バカだなあ。だって、悪者が居なきゃ正義の味方が活躍できないじゃないか。それはクリープだけのコーヒーみたいなもんだよ」 「クリープだけのコーヒー?」 「今思いついたんだよ。この世に正義しかなかったら誰もそれを正義だと思わないだろ?」 「お兄ちゃんは頭が良いんだね!」 「それはそうさ、だって悪人の方が悪知恵が働くもんなんだよ」 と兄は悪人ような表情をしながら弟に言った。 弟思いの兄は弟に約束した。 「僕はキミの為に悪人になるよ」 「お兄ちゃん、ありがとう!僕はきっと正義の味方になるよ!」 次の年、双子の兄弟が5歳になる頃、二人の両親が交通事故で亡くなった。 二人はそれぞれ別の里親に引き取られる事になったのだった。 弟はとても裕福で暖かい家庭に引き取られ、幸せに育ち大学に入学し卒業後に新聞社の記者になった。 一方、兄はとても貧しい家庭に引き取られ環境の悪いスラム街で青春時代を過ごした。 兄はスラム街のギャングになり、成人する頃にはそのギャングのボスになっていた。 ある日の事、兄がテレビを見ていると隣町に「正義の味方」が現れたと報道していた。 正義の味方は覆面をしており、正体は不明だがどこからともなく現れ困っている人を助け悪人を退治するのだという。 兄は直感的にこの正義の味方は弟だと悟ったのだった。 しかし隣町は比較的治安も良く、弟が活躍するには不十分だった。 そこで兄は弟の為に隣町までギャングを引き連れ悪事を尽くす事に決めたのだった。 コスチュームも揃える事にした。 正義の味方は青いスーツに正義の頭文字「S」のロゴが入っていたので、兄は自分の覆面スーツを全て黒色に統一して悪党の頭文字「A」のロゴを入れた。 あまり格好が良いとはいえなかったが、これ以外に思いつかなかったのだ。 悪党は神出鬼没に町中に現れ悪事を働くようになった。 正義の味方は大忙しだった。 悪党一味は数多くの事件を起こし正義の味方はそれらの事件を解決していった。 しかし悪党の一味は根絶する事が出来ずにいた。 手下は捉えても悪党のボスは捕まえる事が出来なかったのだ。 まるで正義の味方の事を知り尽くしているかのようだった。 正義の味方は不思議に思った。 「いったい悪党のボスの正体は誰なのだろうか?」 テレビでは連日正義の味方の活躍が伝えられた。 大人達は正義の味方に声援を送っていたのだが不思議なのは子供だった。 町の子供達はあまり正義の味方には関心を示さず悪党のボスにエールを送っていたのだ。 テレビのリポーターは一人の子供にインタビューをしてみた。 「ねえ、君。君は何故悪党のボスが好きなんだね?あんな悪者を?」 「だって、かっこいいんだもん」 居間でテレビを見ていた兄はリモコンスイッチでテレビを消し、叫んだ。 「何か間違っている!子供が悪人の事を好きだなんて!」 兄は夜の町に出て、次の悪事の事に思いを巡らせていると街角の占い師が声を掛けてきた。 「もし、そこの悪党さん」 兄はぎょっとしてその占い師を見た。 「どうして私の事を悪党だと分かるのだね?」 「あたしゃ人の事が見えるのさ。おまいさんは悪党のボスじゃろう?」 「・・・・・・・・」 「まあ、よかろう。おまいさん何か悩みがあるようじゃのう」 「何故、子供達は正義の味方ではなく悪党のボスを応援しているのかね?」 「何故って、そりゃ簡単さ。悪党のボスの方が清い心を持っておるからじゃ。 大人にはそれが分からぬが、子供にはそれが見えるのじゃ」 「そんな訳はないだろう!悪党は悪人だぞ!」 「おまいさんがその清い心を消してしまいたいのなら、方法はあるぞな」 「どうやって?」 「これを飲みなされ」 と言いながら占い師は小さな小瓶を取り出した。 「この薬を飲みなさると、清い心は無くなる。ええかね、これを飲むとおまいさんは本物の悪人になる」 兄は不審そうに小瓶と占い師を交互に見ていたが、小瓶を手に取り中の液体を一気に飲み干した。 目眩がした。 急激に正義に対する憎しみが体からわき上がってきた。 この町の全てが憎悪の対象となり、弟も心の底から憎くなってきたのだった。 兄は本物の悪人になったのだった。 悪党一味の悪行は次第に新聞の一面に載るようになった。 悪党一味は麻薬売買にも手を伸ばし、平和だった町はとても治安の悪い町に変化したのだった。 正義の味方は日々悪と戦った。 それとともに正義の味方は人気者になり、老人からも子供からも愛されるヒーローとなった。 悪党のボスは変装をし、町の変わりようを見てまわっていた。 町はすっかり悪の巣窟と化していた。 毎日町のどこかで犯罪が起きていた。 「これだけ町が凄惨になっていれば、さぞかし正義の味方も活躍のしがいがあるだろう!」 悪党のボスはとても愉快だった。 もっともっとこの町を地獄絵図に変えてやるぞ! そのような事を考えていると、小さな女の子が彼に近づいてきた。 女の子が彼の前で足を止めると、メモ帳を取り出し言った。 「サインをちょうだい!悪党さん!」 「なんだと、どうして私が悪党だと分かる?」 「それぐらい分かるわ」 「だとしたら、何故私のサインがほしいのだね?」 「だって、あなたはとても良い人だから」 「私は悪人だぞ!!お前の親はいったいどーゆー教育をしているのだ?!おじさんはとても怖い人なんだぞ!」 「私は怖くないわ。おじんさんの顔はとても怖いけど、目がウチの犬と同じだわ」 「犬、だと!?」 「私の犬がお留守番をしていて、私が帰ってきた時の目と同じよ。とても嬉しそうなの」 悪党のボスその場を走りながら後にし、罵詈雑言憎しみの言葉を叫んだ。 憎い! にくい! 弟よ私はお前が憎いぞ!! もっともっとお前を憎んでみせよう!! 悪党のボスは町でテロを決行する事にした。 テロで町の住人を恐怖のどん底に落としてやるのだ! 外国のテロリストから超性能小型爆弾を仕入れた兄は夜中に超高層ビルに忍び込み、その爆弾をビルの屋上に仕掛けた。 兄が爆弾のタイマーを入れようとしたその時、空からヘリコプターだか飛行機だか見分けが付かない飛行物体が現れ兄に向けサーチライトを浴びせた。 正義の味方だった。 正義の味方は飛行物体から飛び降り、ビルの屋上に着地した。 「ようやく会えたな、悪党のボス!今回のお前の行動はこちらに筒抜けだったよ。お前にしては随分とずさんな計画だったな!」 「それ以上近づくな!!爆弾のスイッチを入れるぞ!」 「何故こんな事をする?!」 「正義が憎いからだ!!」 その叫び声を聞き、正義の味方は悪党のボスの顔をじっと見た。 「お前とはどこかで会っているような気がするのだが?」 「お前は忘れているだろうが、私はお前の事をよく知っているよ」 屋上のドアが開きテレビカメラを従えた男が入ってきた。 テレビニュースのクルーだった。 リポーターが実況中継を始めた。 「全国の皆さまっ!見て下さい!とうとう正義の味方が悪党のボスを追いつめたのですっ!!世紀の瞬間です!!せーきの大瞬間なのです! あっ、あっ、あっ、あれはなんでしょうか?!爆弾!!大変です! 悪党のボスが爆弾のスイッチを握っています!! 危機一髪!!さあ、我らがヒーロー正義の味方はいったいどーするのでしょうか?!しかしなんだか地味です!!二人は戦う事無くにらみ合って言葉を交わすのみです!!映画のようにアクションが繰り広げられる訳でもありません!!実に実に地味です!!あっ、あっ、あっ、悪党のボスがこちらに近づいてきました!!なんでしょうか?いったい私に何の用なのでしょうか? 今っ、悪党のボスが私の目の前に止まりましたっ!!スイッチを握ったままです!!」 「おい、あんた。我々は今とても重要な話をしている。ここから消え失せな!さもないとこのスイッチを押すぜ」 「悪人のくせになんてかってな言い分なのでしょーか?!悪党が今私をきょーはくしています!!正義の味方、助けてください!!」 正義の味方はそれを聞き、リポーターの側まで行き言った。 「そのとおり、我々はとても重要な話をしている。ここから出ていって我々二人きりにしてほしい。あんたに説明しても分からないだろう」 リポーターとテレビクルーは屋上を去り、正義の味方と悪党のボス二人きりになった。 正義の味方が口を開いた。 「なぜ私を憎む?」 「お前が世間知らずだからだ。正義は世の中の事を何も分かっていない。 現にオレは貴様の事をよく知っているが、お前は私の事を何も知らない。 正義は悪の事を何も知らんのだよ!!」 スキが出来たその瞬間を正義の味方は見逃さなかった。 正義の味方が悪党のボスに空手チョップを食らわせると悪党のボスは爆弾のスイッチを落とした。 二人は取っ組み合いになった。 長いあいだ二人は取っ組み合った。 悪党のボスが正義の味方の脇腹にパンチを入れると、正義の味方はよろめき屋上の手すりを乗り越え向こう側に落ちた。 そのまま滑り落ち、片手で手すりをつかまえたまま宙ぶらりんになった。 200メートル下に落ちれば正義の味方といえども即死だ。 悪党は立ち上がり、今にも落ちそうな正義の味方の側まで近づいてきた。 「分かるかな?これが世の中の常なのだよ」 「私をここから突き落とせばお前の勝利だな」 「いいや、私はお前を突き落とさない」 そう言いながら悪党のボスは正義の味方に手を差し伸べた。 正義の味方は不信そうな顔をしたが、その手を握った。 正義の味方が悪党のボスの手を握った瞬間全てを理解した。 「お兄さん!!」 双子の兄と弟は屋上の手すりに腰掛けながら、町の夜景を見ていた。 弟は兄に聞いた。 「どうして僕を助けたのですか?」 「正義の味方が居なければ、悪人の存在意義が無いからな」 「何を言っているのかさっぱり分かりませんよ。お兄さんは狂っています」 「そうかもな」 その時銃声が鳴り響き、兄の胸を銃弾が貫いた。 兄は200メートル下へ吸い込まれるように落ちていった。 「お兄さん!!」 弟が兄を見ると、兄も弟を見にっこりと微笑み、そして町の夜景の中へと吸い込まれていった。 正義の味方が後ろを振り返ると警官がライフルを構え立っていた。 ライフルの銃身からは煙が立ち上っていた。 「なぜ撃った?!」 「いや、何故って悪党のボスが屋上からあなたを突き落とそうとしているように見えたもんですから・・・・」 正義の味方はカッとなり警官を睨みつけたが、思い直し言った。 「いや・・・・ありがとう。おかげで助かった」 翌日の朝、町では祝賀会が開かれる事になった。 悪党のボスが死に、町に平和が戻ってきたからだ。 正義の味方が壇上に立ち、祝賀の演説をする事となった。 正義の味方は壇上に立ち、聴衆を見渡した。 大人も子供も老人もみんなとても幸せな顔をしていた。 マイクを握り正義の味方は語り始めた。 「悪党のボスは・・・・・」 しばらく言葉に詰まったが、昨夜の兄の微笑みを思い出し、演説を続けた。 「悪党のボスは実は、私の双子の兄でした。 何故兄が悪の道へと進んだのか私には分かりません。 ・・・・しかしこれだけは言えます」 壇上の下を見ると子供達も真剣な表情をしながら聞いていた。 「・・・・・・兄は本物の悪人でした。 兄には良心のカケラも持ち合わせていませんでした。 あれほどの極悪人を私は知りません。 兄はいたずらに、この町を犯罪の巣窟にし、住民を恐怖に陥れたのです。 一時期、兄は子供達に人気でしたが、私は理解に苦しみます。 何故なら彼は悪人だったからです。 騙されてはいけません、兄は悪が蔓延る事を無上の喜びとしていたのですから。 しかし、悪党は滅びこの町には平和が戻ってきたのです!! それをみんなで喜び祝福しようではありませんか!」 聴衆から歓声がわき上がった。 何故か正義の味方は聴衆に背を向け空を見上げた。 そして正義の味方はそのまましばらく空を見上げていた。 誰にも彼の表情は見えなかった。 |
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