パウロ・コエーリョ「男と影」
何年も前の事、その愛と寛容さで知られていた男が居た。
この事を知った神は男のもとへ天使を送った。
「神はなたのもとへ、あなたの善行に報いる為に私を使わしました」天使は男に言った。
「なんでも願いを叶えましょう。あなたには癒しの力を授ける事も出来ますが?」
「いいえ」男は言った。
「誰を癒すべきかは、それは神様に選んでほしいのです」
「そうですか。それでは、罪人を正しい道へと導く力は?」
「それはあなたのような天使のための仕事です。私は尊敬されたり、みんなの模範的な例にはなりたくないのです」
「まってください。私はあなたに、奇跡を授けない事には天国には戻れないのですよ。もし、あなたが何も望まなくても、何かを授けない事には・・・・」
男は一瞬考え、そして言った。
「分かりました。私は奇跡が自分を通じて成される事を望みます、ただし、誰に気づかれる事なく。
自分自身にもです。私は自分の虚栄心を満足をさせたくはないですから」
そこで天使は男の影に癒しの力を授けた。
太陽の光が男の顔に当たる時にだけ、男の影には人を癒す事が出来たのだった。
男がどこへ行こうとも、その影は病人を癒し、荒れた土地は実り豊かになり、落ち込んだ人々は再び元気を取り戻したのだった。
男は地球上を何年も旅をして回り、数々の奇跡を起こしていった。
しかし、男は自分の起こしている奇跡には気づく事はなかった。
そして男は望み通りに彼自身の神聖さに気づく事なく生き、死ぬことができた。
http://paulocoelhoblog.com/2010/11/10/the-man-and-his-shadow/